母と子 
 GURPSザウゼリアリコシェ シナリオ

 

■■物語■■

緑も麗しい西方の地、クラウス。
かの地に住まう人々は森と共にあり、、そして森を糧として生きる。
そこに一人の男がいた。弓を生業にし、その日の糧を得る生活。
男はその村で妻と、小さな娘と共に暮らしていた。つつましく、幸せに暮らしていた。
森は常に、豊かな実りを、彼の地に住まう全てのものに分け与え、分け与えられたものたちはその実りに感謝し、息を吸うごとく当然に敬い生きてきた。
だがその年、森は実りを為さずその地に住まう生物はことごとく飢えた。
男も、その家族も同様。日々の暮らしは厳しくなる一方だった。
飢えた日々の中、男はそれでも森に分け入り獲物を探す。
彼がその日見つけたのは、飢えに弱った小熊。親熊の姿は近くにない。
男はその熊を殺し、喰うつもりでいた。だが、
「ここで殺す必要はないだろう。何もここで殺さなくてもいいだろう」
男は熊を連れ帰る。
自らの家に。
だが、家出待つ娘は、自らが飢えているにも関わらず、その熊を食すのを良しとしない。
男は思わず問いかけた。
「なぜ、こいつを殺すのを拒むのか?」
娘は応える。
「今は森に実りがないけど、この子も森の実りだわ。いつも貰ってばかりだもの、この子は森に返してあげましょう」
男はなるほどと思い直して、熊を養うことにした。苦しかった生活は、さらに苦しくなった。だが、男は気にしなかった。
森の実りは秋になってもかえってこない。小熊も、息は吹き返したが、森に帰れるほどは回復しない。男の家族も、村に住まう人々も飢えに飢えていた。
男は、月が満ちた夜、明日こそはこの熊を喰おうと思った。いや、喰わねばならないと。
その日のことだ。
「熊だ。大熊が出た!おまえの家の方だ」
村は大騒ぎになった。男は家族のことを思った。娘のことを。妻のことを。間に合ってくれ。風のように走り、娘を熊からかばうようにして走る妻と、大熊を見るや弓を構え、矢をつがえ、熊を撃った。
男の弓の腕は、神の光る矢よりも確かに熊の額を射抜き、熊は倒れ臥した。
小熊をつないでいた小さな木製の檻の前で。子供をかばう母のように。
冬になるまであと三度満月を見るという頃、森に実りがかえってきた。小熊も森へと帰っていった。
■■背景■■
一人の男と熊の物語。
かつて、飢えに狂い、村に降りてきた熊と、それを迎え撃った猟師がいた。
後にその狩人は冒険者となり、弓の名手として名を馳せ、そして老いと共に故郷の村へ消えていった。
今も、吟遊詩人が語る物語『緑海の狩人』。
フォードの西、数キロの所にある『クラウス丘陵』。その麓にある密林に囲まれた寒村。詩人の語る物語の舞台はそこにある。
今年、その村と『クラウス丘陵』に怪異が起きた。
森の木々に奇妙な病気が発生し、木々のつけた果実は毒を帯び、それを食べる小さな動物たちは狂い、さらにその動物を食べる生物達はことさらに凶暴に。彼らは人里におり、村を荒らし、ついには人間を喰う魔獣になった。
その中でも恐るべきは、森に住まう熊。その熊は、森に住まう動物達を組織化し、人間の領域に襲いかかったのだ。
村は冒険者に依頼を出し、冒険者達は森に分け入っていった。
だが、冒険者達は帰ってこなかった。水先案内の老人一人を残して、行方知れずになった。今回の依頼はその冒険者達の救出依頼。
 森で起きた事件。フォードではまだ危険視されていない、野生動物の異常な行動。それを退治に出た冒険者が行方知れずになった。それだけのことだと考えられていた。だが……
■■シナリオ■■
 
起:『雑事』

プレイヤーキャラクター達は、行方知れずになった冒険者達の救出という依頼を受ける。その冒険者達は、フォードの西方数キロ先『クラウス丘陵』の周囲に広がる『緑の海』で、行方をくらましたという。
彼らは、森の熊の退治を依頼された新米で、冒険者の店では簡単なトラブルだろうと考えられている。水先案内人を現地に待たせているので、その男と一緒に救助に向かって欲しいというのが今回の依頼だ。
報酬は全体で300フォード。別途、手数料は冒険者組織から支払われる。

★このときの手数料での買い物は、森でのサバイバルに必要そうなもののみを許可すること。決してエリクサーやら、魔法の品などをそろえるためのお金ではありませぬゆえ、留意。

★この時点で与えておくべき情報

・『クラウス丘陵』
地域知識/フォード:フォードの西数キロにある丘陵地帯。鬱蒼とした森が周囲に広がっており、峻険と言うほどではないが人が近寄りたがる土地ではない。
吟遊詩人(あるいはそれに類する文献に関する技能):その地方出身の冒険者にまつわる物語を知っている。
・『緑の海』
地域知識/フォード:『クラウス丘陵』の周囲に広がる密林。険しく深いものの、豊穣な実りがあるとして有名で、木苺や山葡萄などが採れる。
交渉(裏社会):そこから入ってきている愛玩向けの動物の仕入れが滞っている。取引のあった男との連絡が、完全に途絶えているのだ。
・『冒険者達』
知力判定:人物紹介の欄を参考に、あるいはそれを見せてしまって構わない。
承:『熊犬(ベーレン)』

現地にたどり着いて一行は、閑散とした村を目の前にし、弓による狙撃を受ける。知覚判定の後、避けの判定を要求すること。
その弓は、正確に(知覚判定、あるいは避けに失敗した人間の)足元にいた猫の喉を射抜く。猫は、今にもキャラクターの足に噛みつこうとした姿のまま息絶えている。

「気をつけろ」
と言って現れるのは、いかにも猟師然とした姿の、熊のように大柄な男。

彼は「ベーレンだ」と名乗り、水先案内人であることを告げる。
彼は、背景に書いてあるような情報(森で何か怪異が起きて、動物達に異常があるということ。そして、その動物達を組織して人里に降りてくる『森の王』という熊がいるということ)をプレイヤーに告げる。

「だが、今は人命が優先だ」
彼は、明日の早朝、森に入るから今日は寝ろとつげ、空き家を宿として手配してくれる。
「俺は村の隅にある炭焼き小屋にいる。何か有れば呼びに来い」


■何らかの理由で村から出ていきたいといった人が居た場合
村の外に、パンサーや何か足の速い肉食獣が現れ、出ていこうとしたものを喰い殺そうとする。おそらく逃れることは出来ないと告げること。

★ここで与えておくべき情報(男から聞けること)

・村の人たちはどうしたのか
「ある者は喰い殺されたし、ある者はそれを恐れ、つてを頼って他の町に移って行った」

・熊のこと
「奴は人里で暮らしたことがあるだけに、人間のやり方を知っている。賢く、怖ろしい奴だ」

・冒険者達のこと
「あいつらは……。『森の王』の怒りを買った。無事かどうかはわからない」

・物語のこと
「昔の話だ……」

転:『森の王』

ここで、プレイヤーキャラクター達は3度の襲撃を受ける。本気で戦う必要はないので、誤ってPCを殺さないように注意すること。

■一度目の襲撃
夜。村中が寝静まったころ。
どこからか悲鳴が上がる。

「熊だ!『森の王』がおりてきたぞ!」
外に出たPCが見るのは、巨大な熊の姿。二本足で立ち上がり、その足元には肉を囓り取られた村の男の死体が転がっている。
熊の目線の先には、破れた小屋の中で子供をかばう母親の姿が見える(知覚判定など適当な判定をさせ、あえて『プレイヤーに気づかせる』こと。必ずしも、キャラクターが気づく必要はない)。熊の次の獲物はその親子だ!
データは、野生動物の欄にある熊そのままで良い。夜間戦闘であることを考慮し、全ての判定には暗闇による修正を課すこと。
熊はその親子の近くまで到達すると、苦悶するような咆吼を上げ、その場から立ち去る。

・ここでの行動如何で与えるCPを変化させること。
積極的に助けようとする……+1
傍観する……0
見捨てる……−1

・ここで与えておくべき情報
ベーレンはこの場に現れず、戦闘が終わった後、傷だらけで炭焼き小屋の方からやってくる。彼は、「熊がやってきたので阻止しようとしたが、突破された」と述べる。
あと、それとなく熊がベーレンであることをアピールする。
 

■二度目の襲撃
二度目の襲撃は翌朝、森の中に入ってから起きる。
ベーレンを先頭に森の中に入り、しばらく行くと野営の跡がある。

「ここが彼らと最後に野営した場所だ」
その野営跡の周囲を探索することになるだろう(適当な判定を何度かさせ、それっぽく仕上げるのが望ましい)。すると、木から吊された何かを見つける。その何かは、もうずいぶん腐っているが何かの死体だ。
「それは『森の王』の子供だ。彼らがヤツをおびき寄せるためにやった」
ベーレンは苦々しそうにつぶやき、気の毒そうにその死体を見上げている。

★ここで与えておくべき情報。

生存/森、あるいは追跡、動植物知識などの技能:ここを歩き回っていたのは一頭の熊だけではないのではないだろうか? 足跡が複数、違う大きさのものが確認できる。


ベーレンの言葉

「母親の手の届かないところを見計らってこの高さにつり上げたのだ。惨いことを…」
「だが、奴は来なかった」
知力判定:この高さであれば、昨日の熊手あれば届いたのではないだろうか? 大きさの話に矛盾がある。

その夜はそこで野営することになる(探索とかで時間がかかるからということ)。野営の最中にまたも昨日の熊に襲われる。
今回は少し力を入れ目にして、プレイヤーを追いつめていくべき。
そして、今回も、ベーレンは現れない……。
 

■三回目の襲撃
冒険者達は見つからない。ベーレンはせめて遺品くらいは持ち帰ろうと巣穴を捜すことになる。そして巣穴を見つける。周囲は鬱蒼とした茂みに覆われカモフラージュされ、熊の賢さをうかがわせる。
ベーレンは何のかんのと良いわけをつけながら、巣穴に入ろうとしない。プレイヤー達を先頭にその穴に入っていくことを求められる。
穴の高低と幅は人一人分の幅。槍を振り回して取り回すのには困難な高低だと説明しておけばいい。
で、入ったところを熊に襲わせるのだ。
熊の巣穴なので、前後に逃げ場はない。そういう戦闘をすることになる。
 

結:『母と子』

その熊を殺し、家路につくことが出来ればこのシナリオは終了である。
その家路の最中、大きな熊の死体と、数人の人間の死体を……。
熊の身体には、先ほどPCたちが熊につけてきたように、剣や槍などの武器の傷がたくさん付けられている。
冒険者達は反対に弓矢で急所を一撃ずつ……。

■■人物紹介■■
・アシュトン=ヘイルズ
若手の冒険者であり、元々は野党の集団にいたが足を洗って冒険者になったという経歴を持っている。
行方不明になった冒険者達のリーダー的存在。
その経歴ゆえか、手口自体が陰惨なものになりがちではあるが、腕は立ち、頭も切れる。
だがその一方で保護された野生動物の密売などの汚い商売に手を染めているという話もある。

・ベーレン
村では『熊親父』というあだ名で親しまれている男。
相当の腕の弓兵であり、一時期は冒険者として活躍していたこともあった。
吟遊詩人の語る歌のほうも参考に、彼のことを想像してくれると面倒が無くてありがたいなぁ……。
 

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